「長生き」が地球を滅ぼす あるいは、中学二年生はナマコの夢を見るか?

「長生き」が地球を滅ぼす ― 現代人の時間とエネルギー ―

「長生き」が地球を滅ぼす ― 現代人の時間とエネルギー ―

センセーショナルな書名から、似非科学本かと思われるかも知れないが、けしてそうではない。本書において科学的知見と著者の主張とは峻別可能なので、生物のサイズ、時間、エネルギー消費のスケーリング法則について学ぶことができ、かつ、それらの知見をもとにした倫理の構築の可能性について思いを馳せることができる。

物理学の世界には好き嫌いや目的や価値などは存在しません。[snip] それに対して生物は生き残って子孫を増やすという目的をもっています。そして、今のこの行動がその目的にかなっているかどうかの価値判断を、生物はたえず行っているのです。こういう生物を対象にしていますから、生物学では価値や目的が重要な関心事なのです。

この本を読み終わってみっつのことを考えた。
ひとつめ、例え話が機能主義的に傾くとき、それへの反論はいかに可能であるかという点*1
ふたつめは生物学と倫理との関係について。かつてトマス・ハクスレーが「生物をいくら研究してみてもそこに倫理の片鱗すら見つけることはできないだろう」みたいなことを書いていたと記憶するが、動物(animal)は教化(civilize)されなければならないという思想からは、生物が人間の手本になるという発想は生まれない。しかし私は人間が生物の自然なありようからあまりに逸脱することは、さまざまなストレスを生み、人間社会を歪めていると考えている。本書では日本でいまもうひとつの問題とされている少子化問題には触れられていないが、子供たちの性欲、生物学的にはきわめて尤もなそれを過度に押さえつけていることがその根本的な原因であり、社会を大きく歪めているのではとの危惧は大きい。中学二年生の性欲以上に少子化問題を解決するパワーが他にあるだろうか?
みっつめは本書のスコープ外のことではあるが、生物と情報に関する問題である。

さて、あとがきでも本書が非国民の思想と看做される虞が指摘されているが、その点については私も別の観点で同意したい。本書の考えは決して(貨幣)経済発展にはつながらない。本書の思想は現代国家にとって極めて危険である。

構造主義科学論の冒険 (講談社学術文庫)

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Evolution and Ethics: T.H. Huxley's Evolution and Ethics With New Essays on Its Victorian and Sociobiological Context

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歌う生物学 必修編

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ナマコ ガイドブック

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*1:池田清彦さんのこの本の書評を是非読んでみたい。