バカについて

ある統計によれば人間の八十パーセントは馬鹿なのだそうだが、『馬鹿について』*1という本を書いた西独の人類遺伝学者ホルスト・ガイヤーの定義では、馬鹿の数は八十パーセントより多くて、人間の百パーセントは馬鹿なのであり、単に「知能の低すぎる馬鹿」、「知能の正常な馬鹿」、「知能の高すぎる馬鹿」の三馬鹿に分類されるのにすぎぬという。安心しよう、われわれはみんな馬鹿なのだ。(種村季弘, 「愚者の機械学」あとがき, *2 )

ヒトがいかに愚かな生き物であるかについて、我々は日々多くを経験しているので、ホルスト・ガイヤー氏の主張には素直に頷ける。だが自分もまたヒトである以上、同じくバカなのであるということを認めるのはなかなか難しい。特に「知能の高すぎる馬鹿」にはこの傾向が強く、他の人が誤りを指摘してもすぐに論破されてしまうので、困る。

本書は、「最良にして最も聡明」であるはずの、アメリカの誇るべき英知ある人びとが、なぜかくも残忍で愚劣きわまりないベトナム戦争の泥沼へとアメリカを引きずりこんでいったのか、それはアメリカにとって何を意味したのかを、F. D. ルーズベルト以来のアメリカの対外姿勢とアメリカ政治社会のありようのなかから見事に描き出した名著 David Halberstam, The Best and the Brightest, Random House, New York, 1972*3を訳出したものである。(浅野輔, 「ベスト&ブライテスト」訳者まえがき, *4 )

アメリカの誇るべき英知ある人びとの残忍で愚劣きわまりない行いに、我々も加担しているとするなら、それもまた愚かな行為ではあるまいか。バカであるなら過ちを犯すことは必然であり、であるなら最良の方法は誤りを早く悟り糺すことである。

俺はおまえのようにはならない
確かにあるのは取り引きと妥協だけで みんな同じことの繰り返しで
流れに逆らうのがバカバカしいあがきだとしても 俺は逆らってやる
なぜかというと俺はバカだからだ*5

しかしそれにしても、人びとの愚かさが多様であるのに対して、それを形容する語彙のいかに貧弱であることか。記憶力がないのか、論理性がないのか、それらが単に弱いだけなのか、他人に比べて遅いのか、思考の前提が広いのか、狭いのか、それとも単に倫理性が欠如しているのか?そもそも倫理体系が自分と異なるのか、などなどを簡単に形容できるバカについての語彙が必要ではないか?

アホちゃいまんねんパーでんねん

とは何を意味しているのか?

愚かさも ちうくらゐなり おらがはる(空心斎)

*1:

馬鹿について―人間-この愚かなるもの

馬鹿について―人間-この愚かなるもの

*2:

愚者の機械学

愚者の機械学

*3:

The Best and the Brightest

The Best and the Brightest

*4:

ベスト&ブライテスト〈上〉栄光と興奮に憑かれて (朝日文庫)

ベスト&ブライテスト〈上〉栄光と興奮に憑かれて (朝日文庫)

*5:

極めてかもしだ (Vol.3) (Ohta comics)

極めてかもしだ (Vol.3) (Ohta comics)